すばらしかったです。映画館で二時間ずっと、満面の笑みで過ごすことができました。こんな楽しい映画が観れるとは、という純粋な喜び。
すでに色々なところで指摘され、また作り手も認めている通り、『ダイ・ハード』に強く影響された映画です。
しかしそれ以上にぼくが感じたのは、その1988年の映画ではなく、90年代のアクション映画に対するたくさんのオマージュです。同じシリーズでも『ダイ・ハード3』、『ミッション:インポッシブル』、そして『ザ・ロック』。
しかもそれらの言及のそれぞれが、工夫が加えられていたり、今回の映画にあわせて調整されていたりと、きちんとブラッシュアップされている。
要は、90年代後半のぼくが好きなアクション映画を、最新の技術と今のキャストで、再度面白くやり直してくれた映画というわけです。
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そのうえ、主人公を演じるのはチャニング・テイタム。先週『マジック・マイク』を観て、同じ30代男としてすっかり共感し好きになってしまった人です*1。
自分の好きなタイプの映画で、自分の好きな俳優が大活躍。もうこれは好きにならざるをえません。
前述の90年代アクション映画からの引用を、安易だ、ステレオタイプのつなぎ合わせに過ぎない、としてむしろ低く評価する人も多いようです。
ぼくはそうは思いません。過去から引用を繰り返してなにがいけないのでしょうか? 映画の無邪気なリミックスはクウェンティン・タランティーノだけの特許じゃないのです。
映画の冒頭、ジェイミー・フォックス演じる大統領がリンカーンについて思い入れたっぷりに語るシーンがあります。劇中でも繰り返し過去の大統領への言及があり、またそうした過去への恋慕が、ある致命的な窮地から登場人物の一人を救いもする。
200年と少しの短い歴史、それも安易で暴力的で血と汚辱にまみれた自慢できない歴史のなかで、それでも輝かしい先人の業績をたいせつにたいせつに胸に秘めて理想を求める。なにより、偉人たちの殿堂としてのホワイトハウスを舞台に、一大娯楽作品を作ってしまう。
ぼくには、リンカーンの言葉を引用して理想を目指すことと、アクション映画の引用で楽しむことには、世の良きものへのあこがれが通底しているように思えます。
自分(とその時代)はヒドいままで終わりそうだけれど、それでも自分たちはこういう良きものを知っているのだし、それを目指して生きていくしかないじゃないか。そういう態度。
結果としてできあがったものはすごくバカなんだけれども、バカはバカにできる範囲でわずかに前進しているのです。
ていうか自分たちはバカだと思ってないよ!これはこれで90年代アクション映画の文法内で最大限にポリティカリー・コレクトで最大限に倫理的で最大限に世界情勢に気配ってんだよ!それを頭ごなしにバカの一言で片付けるんじゃねーよ!これがダメだってんならどうすりゃいいんだよ! 俺たちそんな頭良くないよ!
...おっと、少々自分の心情を過分にのせすぎた語りをしてしまいました。
単純に、映画だけについての話に戻しておきましょう。
繰り返しになりますが、90年代アクション映画へのオマージュは気がきいていて愛があります。ぼくが一番はっとなったのは、ジェイミー・フォックス演じる大統領ソウヤーの造形。近眼なので、乱闘場面で必死に眼鏡をかけなおし銃を撃つ、というくだりの所作が、すごく『ダイ・ハード3』のサミュエル・L・ジャクソンっぽいのです!
ほかの引用も、ネタ元を観ていないと意味がわからないようなものは全くありません。そもそもチャニング・テイタムのタンクトップだって、彼の着こなしがすげーセクシーだから成り立っているんですよ! タンクトップの上からテロリストから奪ったボディアーマーを羽織って、大型ナイフ片手に素晴らしくバネのある身体を躍らせる彼のかっこよさといったら!
アクションとスペクタクルをおさめる撮影もまたいい。
ちょっと非現実的なくらいに美しい、ハイパーリアルな質感が、ホワイトハウスという特殊すぎる舞台でのアクション映画にはとても適していたと思います。
主人公たちを追い詰める悪役陣も素晴らしい限りです。
まるで『ゼロ・ダーク・サーティ』の頼れる彼が暗黒面に落ちたかのようなキャラクターのジェイソン・クラーク、中年男の空虚さに非道な正義を満タンにしてしまったジェームズ・ウッズの二人だけでも満足なのに、脇の悪役たちも「えっ、こんないい悪役俳優がまだいたの?」という趣。
彼らの出自と集まった経緯にさらっと触れる手つきや、攻撃そのものではなく攻撃の結果もたらされる政治的動揺のめまぐるしさは、謀略サスペンスの面白さにも満ちています。これで最後の黒幕の処理にもう一工夫あれば、スパイものとしての評価もばっちりだったのですが。後日マギー・ギレンホールに落とし前つけてもらうとか色々あるじゃーん。
そういうわけで、ふつうに観ても楽しめる、また90年代アクション映画に思い入れがあれば諸手を挙げて喝采、という楽しい映画でありました。ヒャッホー!!
↑エンディングで流れるHe Met Herもユル可愛くってサイコー!