『残響のテロル』舞台版を観てきました。
アニメが大好きなだけに出来が心配でしたが、おおむね杞憂でした。言いたいところもあるけれど、これはこれで一個の作品になっていた。
タイトルにもある通り、背景に映しだされる3D映像がひとつの見ものです。
個人的には、ほんらい自由で無限の演劇の舞台に、わざわざ一定の枠をつくって映像を映し出すという演出はあまり好きではありません。それが、アニメや映画のような演出をしたい、でもコスト等の物理的な条件からできない、ならば映像だ、ってな方向のものならなおさら。
ただ、今回はじめて3D映像を使った演出を観て、使い方によってはすごくいいものになるのだ、と思いました。
たとえば冒頭の核廃棄物処理所のシーン、ナインが壁に赤いスプレーで描く「VON」の文字。ナインが客席に向かってスプレーを使うと、ナインと観客のあいだの宙に「VON」が浮かび上がります。舞台上の俳優と観客のあいだに生まれたその文字は、その二者が生で向かい合う演劇でしか描けない鮮烈さに満ちていました。
エンディングでの、映画のようにスタッフロールを映し出すなど、凡庸で興ざめする演出もあったものの、そうした鮮烈ないくつかの場面のおかげで、総じて非常におもしろい印象を抱きました。
まあそういう新奇な演出もまずは俳優たちの演技がなければはじまらないわけですが、みな好ましい演技をしていたと思います。
ぼくの行った6日・18時半からの公演は、終了後にハイタッチ会が開催され、俳優たちの半分くらいと顔を見合わせてハイタッチする、というたいへん貴重な経験をしてきました*1。なので余計に好ましく思えてしまっております。ナインを演じた松村龍之介さんなんか、ぼくが「かっこよかったです!」って言ったら「そうですか..? 自信が持てます」とかおっしゃるわけですよ。いや最初から自信もっていいんだよあなた!こんだけの舞台に立ってたくさんの客を呼んでるんだから。まったくなんて好青年なの…とかうっとりしてしまった*2。ま、そういうおまけは別としても、ナインもツエルブも、アニメをトレースしつつ、舞台版だけの人物を作り上げていてよかったです。
内面としては、リサとハイヴの両ヒロインのほうが、少年たちふたりよりもさらにアニメから離れていたかもしれません。アニメ版と同じく潘めぐみさんが演じるハイヴはもう文句なしのハイヴなわけですけど、各シーンで少しずつ感情をアニメよりも多く吐露しているところに、意外なかわいさをみました。
ダウナー系のアホの子だったアニメ版に対して、けっこうきゃっきゃと明るい舞台版リサもこれはこれであり。違うと思わせつつも、声のトーンやしゃべり方はアニメ版に非常に近くしていて、演じている桃瀬美咲さん、やるなーと思いました。
あと、アニメにおけるリサとハイヴって、みょうな色っぽさがあったと思うんですよね。アニメ放映時、ツイッター上とかで、けっこうな数の男オタが盛り上がっていた記憶があるんですけど、舞台版でもちゃんとエロかったから安心しろみんな。なんつーか、細身だけどむちっとしているあの作画がちゃんと三次元になっていてですね……。けっこう前方の席に座れたので、プール際で靴下を脱ぐリサとか、ハイヴの胸元とか、たいへん目の毒でした。いやこんな感想ですみませんほんと。
物語に話を戻します。
内容としては、全11話のアニメをうまく圧縮し、かつ演劇でならより面白くみせられる場面をふくらませ、となかなかによい脚色がなされていました。
アニメの持っていたあの温度と湿度の低さは薄まり、登場人物たちが心情をはっきり口にするわかりやすさがありました。饒舌でない愚か者たちが交錯して絡み合っていくアニメの物語の手触りが好きだったもので、物語としてどちらが好きかと言われたらアニメ版だと答えざるを得ないのですが、登場人物により近さを感じたのはこちらの舞台版のほうです。やはり、面と向かい合ってナインに「おれたちのことをおぼえていてほしい」って言われたら、リサじゃなくても心をつかまれてしまうよ。
脚本の改変で個人的に驚きかつ心をつかまれたのは、ナインが原爆を「兄弟」と言うこと。たぶんアニメではそこまで明言していなかったと思います。かつてブログでこういうことを言っていたので、我が意を得たり、と内心大喜びでありました。
ナインとツエルブが核爆弾を脅迫に用いたのは、二人をかつてアテネ計画に引きずり込み虐待した日本政府の一派が、同じく手を染めていた秘密計画の産物だったからである。いわば核爆弾は彼らふたりの隠された兄弟だったのだ。
『残響のテロル』覚書 - こづかい三万円の日々
前半の最後、急激にリサへ近づいていくツエルブに距離を感じてしまうナインをはっきり描くことがアニメとの大きな分岐点になっているように思います。後半、ツエルブ、ハイヴ、そして原爆への感情を踏み込んで口にするナインの姿は新鮮だったし、愛おしく感じられました。
そういうナインと自分の違いをはじめて認識して、生きていこうとしたツエルブの姿もまた。
兄弟といえば、アニメと今回の舞台も、同じ脚本家から生み出された兄弟のようなものなのかもしれません。同じところも違うところもそれぞれあって、しかもほんとうの兄弟のようにそれぞれにいいところもあればわるいところもあるのですが――兄の行いをみて学んでいるはずの弟がみな成績優秀とは限らないのが難しいところ――、でも、兄が好きな人はこの弟も気に入るんじゃないかしら、と思います。
千秋楽の3月6日は、昼・夜公演のニコ生中継も行うようです。今日の客の入りから考えると、現場の当日券だってけっこう出るんじゃないかな、と思う。アニメ『残響のテロル』が好きなみなさん、舞台のうえのナインたちのことも、ぜひ見届けてはいかがでしょうか。
PREMIUM 3D STAGE「残響のテロル」【ゲネプロ】