こづかい三万円の日々

40代の男がアニメ、映画、音楽などについて書いています。Twitter:@tegit

繰り返して進んでく/Aqours 1st LoveLive! Step! ZERO to ONE 二日目レビュー

 2月26日、南大沢TOHOシネマズにてライブビューイング鑑賞。

 昨日の覚え書きはこちら*1

 

 セットリスト中二曲が異なるだけで、あとは昨日の内容と基本的に同じ構成・演出がとられました。曲だけでなく、曲のあいだのMCすら昨日と一緒。会場の大きさに驚く言葉など、昨日聞いている身からすれば、ちょっと変わってもいいんじゃない、とも思ったのですが、それは今日初めての観客への配慮であり、また、二日間あわせて「Aqoursの最初の一歩目なのだ」というメッセージでもあるのだろうと思われます。そして、この「同じ内容を二回繰り返す」という演出が、ライブが進むに従い、徐々に重要な意味を帯びてきます。


 楽曲が変わった部分を除いて、わたしが最初に気づいた昨日と違うところは、CYaRon!の『夜空はなんでも知ってるの』直前のMCです。サイリウムで「夜空」をイメージした光をともしてみて、というと、観客が主に青の光を灯す。しかし当然、ほかの光や、CYaRon!のキャラクタのイメージカラーを灯す人もいる。その光をさして、たぶん伊波杏樹さんだったと思うのですが、「星になってる!」と言ったのです。そして、その星を繋げて星座がある、というようなことを言った。
 会場の人たちが無意識に取った行動が、ステージ上のCYaRon!からは意味のあるものに見えた、ということです。「星」になれた観客の人、すごく嬉しかったんじゃないでしょうか。わたしはそれを見て、まるで、Aqoursに力をもらったファンが、自ら輝こうとそれぞれの夢を追う様のようだ、と思いました。そして、自分もそのように「星」になれたらいいなあ、とも。


 続くAZALEAのMC、そして観客にサイリウムを使ったアクションを促す演出では、昨日と同じ展開をしつつ、主に諏訪ななかさんが、すでに演出を知って早めに行動してしまった観客にツッコミを入れていく、という変化がありました。他ユニットに比べてさばさばしているAZALEAらしい、クスリとさせられる楽しい変化だったと思います。


 Guilty Kiss、そしてアニメ本編前半の振り返りと『未熟Dreamer』は、昨日と同じ進行だったわけですが、その先の演出を知る観客としては、これから大一番を控える逢田梨香子さんの一挙手一投足が気になって仕方がありませんでした。非常に緊張を強いられるはずの演出を控えつつも、大盛り上がりのギルキス楽曲などをハイテンションにこなしていく姿に、安心しつつもついこちらも緊張が高まってしまう。
 そして、『想いよひとつになれ』です。


 本来は、この楽曲も、昨日と同じものになるはずだった。けれども、逢田さんのピアノ演奏の失敗により、曲をいったん止め、最初から演奏し直すことになってしまう。
 わたしは「ついこの前アデルも同じようなことしてたから気にするな!*2」とか思いながら見ていましたが、ステージ上の逢田さんはパニック状態で、見ていて非常に心配になる様子でした。何人かのキャストが駆けより、笑顔で彼女を抱きしめ、声をかけ、落ち着かせます。時間にしてどのくらい経っていたかわかりません。数分も経っていなかったのかもしれません。そして、逢田さんはもう一度ピアノの席につく。演奏が始まる。
 そこで歌われた『想いよ一つになれ』を、わたしはずっと忘れられないと思う。逢田さんのピアノの音は震えていました。間違いもまた何ヶ所かあった。動揺していたキャストたちの声も震えていた。
 しかし、その状況は、アニメ本編そのものでした。
 梨子は、ピアノコンクールで演奏ができず、傷ついた心を抱えて東京から沼津へやってきました。その心を千歌たち仲間が癒やし、背中を押して、再びピアノを弾くことを決心させた。逢田さんの思いがけない失敗により、ステージ上にその状態が再現されてしまった。
 ピアノの震える音をカバーするかのように、キャストたちのボーカルに力がこもります。「ふるえてる手をにぎって行くんだよ」「やっぱり君とつながってるうれしいよ」「いまさらわかった ひとりじゃない」。すべての歌詞が、まったく新しい意味をもって、重く、熱く、輝いて響く。ほんといまさらだけど、Aqoursは一人じゃなかったのです。わたしはあらためてそのことに打ちのめされるような感動をおぼえた。
 逢田さんが最後の一音を弾いた瞬間、あの震える指が鍵盤をはじいた瞬間、ただただ息をのんでその指を見、音を聴くしかありませんでした。その音は、昨日と全く同じキーの音だけれども、今日、そこでしかありえない意味をもつ音だった。


 そのあとのMCも、やや驚くべきことに、昨日とほぼ同じ内容でした。いや、まっさきに逢田さんの話をするとか、そういう流れになるだろ、と思ったけど、ならない。頑なに、まずは『未熟Dreamer』についての話、そしてルビィがダイヤに声をかけ、という流れを守る。でもそれは、たぶん、逢田さんが落ち着く時間を作るためには正しかった。そして、トラブルについて逢田さん自身が喋り始めるためにも。あの、楽曲終了後のMCは、今日聞いた人からすれば、あまりに「台本どおり」という印象で違和感があったかもしれないけれど、逆に昨日一度聞いていた身からすると、逢田さんのために懸命に大勢を立て直そうとするみんなの意思が透けて見える、これまた熱いものに感じられたのです。


 トラブルの余韻を心地よく冷ます『待ってて愛のうた』ののち、アニメ本編後半のダイジェスト、そして13話・地区予選の再現が行われます。

 あくまでわたしの印象ですが、昨日、地区予選の場面は、多くの観客に好意的に受け入れられていたように思います。あれだけアニメ放送時に非難されていたことを、再び繰り返しただけにも関わらず。
 でもそれは当然です。アニメを観るときと、ライブを観るときの観客の気持ちはまったく異なる。ライブのときの観客は、ステージのうえに、虚構のAqoursが現実化していてほしい、という気持ちで観ています。だから彼女たちが行うことを、率先して信じ、支持しようとする。13話のあの表現を、アニメとしては受け取りづらかった人も、ライブとしては受け取りやすかった。
 昨日書いたとおり*3、そして昨年書いたとおり*4、わたしは13話のことを、その表現単体で好きだと思っています。だから、「13話の抱えていた欠落を今回のライブが埋めた」とは自分の口からは絶対言いたくない。けれども、そういうふうに受け取る人がいるのはわかる。また、おそらくは自身も賭けだとわかってあの13話を提示し、結果としてネット上で強い反発を受けてしまった酒井和男監督が、昨日のライブにおける大成功をうけてようやく「今夜の彼女達のパフォーマンスでやっと13話が完成した様な気持ち」と発言された*5のも、すごくわかる。本当、つらかったんだろうと思います*6
 だから、あの地区予選のシーンを、結果として受け入れられた人が増えたことはとても嬉しい。

 でも、今日はまた状況が変わっていた。昨日のライブのなかの地区予選シーンは、当然ですが、観客にとって未知のものとして演じられました。しかしおそらく昨日のライブで観て、あるいはネット上で情報を見聞して、今日のライブに挑んだ人たちなのでしょう、そのシーンに差し掛かると脱力した姿勢になり、嘲笑といっていい笑いを漏らす観客が複数いた。未知の驚くべきものとして提示された昨日の地区予選シーンとは異なり、すでに知っているものとして行われはじめた今日の地区予選シーンには、そういった、もともと13話に批判的な人たちを乗り越えるような力はなかった。残念ながら。


 でも、ここでも、逢田さん/梨子が変化をもたらしました。ピアノに挫折した梨子が放つ言葉には、今日は、ついさきほどピアノに失敗した逢田さんの経験という非常に思い意味が新たに込められることになった。そのせりふから感じられる重さは、昨日より確実にましていたとわたしは感じました。彼女のせりふのあとで、前述のような笑いがもれることはもうなかった。


 繰り返しになりますが(だってこの原稿自体が繰り返しについての話なんだからしょうがないじゃん!)、わたしは13話の地区予選シーンが、人が演じることの意味や、いま・ここにある自分でないものになろうとすることの困難さと美しさ、そして人が演じることを観ることで観客にもたらされる変化までを描こうとしていて、本当に好きなんだけれども、今日は、「沼津にやってきたばかりの挫折した梨子」+「を再び演じる、すでに成長した梨子」+「を演じる、声優逢田梨香子」+「がかつて演じた梨子を、自らつい先さほど大きな挫折を経験し、そこからふたたびたちあがってみせた逢田梨香子」が演じている、という、何重もの演技/意味の重なり合いが生じていて、その複雑さと重みに心底喜びを感じるほかなかったです。


 渡辺曜について書いたときにも思ったんですけど*7、『ラブライブ!サンシャイン!!』には、複数のメディアを使って、μ'sと同じスクールアイドルの物語を再び語り直す、ということで、表現の繰り返しの面白さであったり、その中のちょっとした差異から生じる喜びであったり、それらの差異を読み取ることで浮かび上がる作品の意外な面であったり、がたくさん生じています。
 昨日・今日と、非常に似た、しかし決定的に違うふたつのライブを、どちらも心から思いっきり楽しんで、その「繰り返し」がもつ素晴らしさを改めて感じました。たぶんそれは、わたし自身がつまらないと感じる「普通」の生活の繰り返しのなかからも、千歌のような楽しい輝きを生み出せるかもしれない、という希望にもつながっている。
 なんて素敵なものを見せてくれるんだ、Aqours。やっぱり大好きだ。


 ライブの最後には、セカンドライブツアー、多数の楽曲リリース、そしてアニメ二期の放送が発表されました。
 個人的な感覚としてはアニメ二期はまだ早いんではと思っていて、すごく不安はあるんですけど、いや、こんなすばらしいライブを見せられたらとりあえずは、今夜は、今夜だけはこう叫んで信じてもう寝ます。そう、「ダイスキがあればダイジョウブさ」!

 

 

*1:Aqours First LoveLive! 一日目おぼえがき http://tegi.hatenablog.com/entry/2017/02/26/015922

*2:先日のグラミー賞授賞式で、あのアデルが自分の歌唱に納得がいかず曲の途中で演奏をやめもう一度やり直す、というハプニングが起きていました。でも、それが昨年亡くなったジョージ・マイケルへのトリビュートという非常にアデル自身が思い入れをもっている演奏である、という背景をくみとった観客もそれを暖かく受け入れ、やり直された演奏は結果として非常によいものになった。エンターテイメントの総本山たるアメリカの、しかもグラミー賞の授賞式ですらそういうことはありうるし、許容されうるんですね。

*3:Aqours First LoveLive! 一日目おぼえがき http://tegi.hatenablog.com/entry/2017/02/26/015922

*4:「わたしたち」から「君」へ/『ラブライブ!サンシャイン!!』13話のこと http://tegi.hatenablog.com/entry/2016/10/05/012803

*5:https://twitter.com/okazuon/status/835498979987087360

*6:わたしは、表現としては完成していたけど、ライブが橋渡しして観客に届けきって、観客が受け入れたことで新たな「完成」をみた、というような意味で監督は件の発言をしたのではないか、と思っています。

*7:「繰り返す人」渡辺曜のこと/『ラブライブ!サンシャイン!!』とAqoursを考える・その7 http://tegi.hatenablog.com/entry/2017/02/25/095729